「絵になるものは何もありませんョ」
昨年テレビ局から取材申し込みがあったとき小生はディレクターさんにそう言いました。
実際に工場内には、どこを探してもテレビ写りするような場所もなければ、派手な演出を見せる作り方もありません。
この時期になると良く目にする映像の一つに、厳寒の酒造りがあります。
モウモウと湯気の立つ中で、上半身裸の男衆が蒸し上がった米を広げ、また一方では酒樽に長い櫂棒を入れ、かけ声よろしく白い酒をかき混ぜています。
手造りポン酢の製造風景には、残念ながらそういうような見せる場面が全くないのです。
とかく面白みのないポン酢作りですが、手造りポン酢にはやっかいなことに他にいくつもの制限がつきます。
特にマイナスとなる要因としては次のようなことが考えられます。
◇機械化による大量生産ができません
◇完成品にするまでにともかく時間がかかりすぎます
◇同一のロットで作ることが少なく、全く同じ味のものを作るのは誠に至難です
◇こだわりが高じて材料を吟味しすぎるのでコストアップしてしまいます
◇凝った材料を使おうとするため安定供給に難があり、商品供給がスムースにまいりません。
◇宣伝にチカラを入れないため、実際の内容が忠実に伝えられていません
その反面には、プラスとなる要因もあり、次のようなことが考えられます。
◇原材料を吟味しながら目が届く範囲で製造することができる
◇丁寧に時間をかけて納得のいく作り方ができる
◇他にないオリジナル性を強調するこだわった商品=作品を作ることができる
◇消費者の要望をダイレクトに受け止め製品に反映させることができる
◇作り手が誰か分かっているので安全・安心が主張できる
などです。
小生にはこの延長線上に、「美味しいポン酢」作りについての大きな関心事があります。
それは
☆『熟成』
です。
手造りポン酢の製造工程の中には手間暇かけたいろいろな製造方法があり、いずれも時間をかけて丁寧に行われます。
中でも、業務的には「寝かせる」という言葉によって説明されますが、調合が終わってから温度管理と攪拌などの世話をしながら「一定期間をおく」ものがあります。
中でも、「料亭や高級割烹仕様のポン酢は、調合後冷蔵庫で20日~1ヶ月位寝かせることがある。」ということを聞いたことがあります。
また、あるお店では「3~4日冷蔵庫で寝かせると旨くなるよ。」と秘伝?を教えてくれました。
熟成、すなわち香酸柑橘果汁の香気成分や天然クエン酸などの酸味と、鰹節のイノシン酸、昆布のグルタミン酸などの旨味成分等、それぞれ別々の素材が持っている特徴となる味が絶妙に調合され、時間を経過することにより自然な形で成分融合がなされ、温度や他の物理的な作用によって全く別のものに変化して不思議な味を作り上げてくれるのが熟成であると理解しております。
理屈からすると、その熟成をコントロールすると美味しいポン酢ができあがることとなります。
コントロールの仕方は千差万別、従ってできあがる味も作り手の心意気によってはいろいろな味となるわけです。
理屈の傍らに屁理屈があるとするならば、その屁理屈は「偏屈」とも「こだわり」とも解釈できます。
少し前には、偏屈やこだわりなどという言葉はあまりにも狭い考え方として歓迎されていなかったように覚えておりますが、なんにでも自己主張するような現代の社会風潮の中では、一つのことにこだわってものを言う人の方が、返って親近感や可愛らしさを感じさせ、今時「高い意識レベル」を持っているようなそんな重厚な存在感を感じさせます。
熟成がコントロールできて、皆がポン酢を食べて喜んでくれる、それがこだわりの味作りの先にあり、小生の夢と希望となっております。
まだ夢があるかって?
それは一杯ありますヨー
どれくらい?ですか…
それはあと、○コ!くらいです。